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最高裁判所大法廷 昭和36年(オ)637号 判決

上告人

勝田宇め

上告人

永田猪太郎

右両名訴訟代理人弁護士

鹿島寛

被上告人

弓田久進

主文

本上告論旨は理由がない。

理由

論旨は、要するに、民訴六四五条二項は、競売手続開始決定をした不動産についてさらに強制競売の申立があつた場合において、さきに開始した競売手続が取り消されたときは、後の申立について登記がなくとも、その申立を記録に添付した時に競売手続開始決定をした効力、したがつて差押の効力が生ずることを定めていると解されるならば、一度競売に付せられた不動産を取得しようとする第三者は登記簿を閲覧するだけでは足らず、不測の損害をこうむることになるから、民訴六四五条二項の規定は憲法二九条一項に違反するというのである。

しかし、民訴六四五条二項が、既に競売手続開始決定のなされた不動産につきさらに他の債権者から強制競売の申立があつた場合に、後の申立を記録に添付しさえすれば、既に開始した競売手続が取り消されても、後の申立は競売手続開始の決定をうけた効力を有することになる旨規定している所以は、これによつて金銭債権実行のため競売手続の円滑かつ迅速な進行を図るためであり、そして司法手続によつて私権実行の目的を達成せしめることは、いうまでもなく法的秩序の維持という公共の福祉に適合するものといわねばならない。したがつて、右規定によつて差押債権者に対する関係において、差押不動産の所有者たる債務者の財産処分権が制約され、第三取得者がその所有権の取得をもつて該競売手続による競落人に対抗できなくても、憲法二九条に違反するとはいえない。あるいは、後の競売申立による差押の効力をも登記簿上公示する方法を講じることは、公示の方法という観点だけからいえば、一層適切であるといえるであろうが、さきの競売開始決定の登記が存続している以上(昭和八年(オ)第一七四五号同年一〇月六日大審院判決、民集一二巻二四七三頁参照)、記録添付の方法でも、公示の目的を達せられないわけではなく、いずれの方法を採るかは立法政策の問題である。それ故、所論は理由がない。

よつて、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。(裁判長裁判官横田喜三郎 裁判官入江俊郎 奥野健一 石坂修一 山田作之助 五鬼上堅磐 横田正俊 斎藤朔郎 長部謹吾 城戸芳彦 石田和外 柏原語六 田中二郎 松田二郎)

上告代理人鹿島寛、同岩武一寿の上告理由

第一点 原判決は憲法違反の違法がある。

第一審判決は被上告人主張の強制競売事件はこれに先つて進行中であつた任意競売事件の取下により競売手続開始の効力を生じたものであるところ、登記簿上第一の競売手続の取消により第二の競売開始決定の効力を生じた旨の記載がなかつたものである。第二の競売手続の被上告人の競落による所有権取得は民法第一七七条によつて第一の競売手続取消前に適法に所有権を取得した上告人宇めには対抗できないものであるとする抗弁を排斥し、右のような場合はさきに任意でなされている開始決定の登記が転用されるから改めてその登記を必要とするものではない(第一審判決理由第二項後段)としてたやすく上告人の主張を一蹴した原判決を維持し、次の理由を附加訂正した。

競売手続開始の決定をなした不動産につき、さらに強制競売の申立のあつたときは、重ねて開始決定をなすことを得ないがこの申立は執行記録に添付することに因つて、さきに開始した競売手続が取消となつたときは開始決定を受けた効力、従つて差押の効力を生ずることは民事訴訟法第六四五条第二項の定めるところである。この効力の生ずるのは右申立が記録に添付せられたときである(昭和七年一月二十日大審院決定)、この場合競売申立の登記を改めてし直す必要はない。右添付の後当該不動産を取得した第三者は、取得当時右の添付事実を知らなくても差押の効力に対してその善意を対抗することを得ないと解すべきである(昭和八年十月六日言渡大審院決判参照)。

このように解するときは、後の競売の申立ならびにその添付を知らない第三取得者は、この競売申立の登記がないのにその差押の効力を対抗せられ不測の損害を受けることとなり、その保護に欠ける結果となるのは免れないが、さきの競売申立は登記によつて知り得るのであるから、更に進んでその後別の競売申立があつた記録に添付せられていることの有無を調査すればこの損害を免れることができるとした。右の解釈に従うときは一度競売に附せられた不動産を売買によつて取得せんとする者は必ず競売記録を閲覧することを要するとせねばならない。そうでないと民法第一七七条の対抗要件の保護をうくることができないのである。これ上告人が民事訴訟法第六四五条第二項の規定を以て憲法第二九条第一項に違反する無効のものであると主張する所以である。原判決の、右は単に立法政策の問題に過ぎないとするは顧みて他をいうの誹あるを免れぬ。<以下略>

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